紙の書類をスキャンしてデータを活用する電子化は、保管スペースの削減や情報共有のために役立ちます。ここでは、ペーパーレス化やDXなどと混同しがちな電子化について、その意義や基本的な技術を整理しました。さらに、電子化の先のデジタル化を視野に入れた上で、戦略総務が何をすべきか考察します。

電子化とは?

電子化とは、紙に印刷して保管している書類をデジタルデータに変換することを指します。オフィスに設置された多くのコピーやプリンタの複合機は、スキャニングの機能を備えています。この複合機を使うことが、最も簡単な電子化の方法です。コンビニエンスストアに設置した複合機でもスキャンが可能です。複合機でスキャン可能なサイズは通常A3サイズまでになりますが、それ以上の文書は外部のサービスに依頼すれば電子ファイルに変換できます。
WordやExcelなどのOfficeのアプリケーションは、保存時や印刷時にPDFファイルの形式を選択すれば簡単に電子化できます。PDFファイルで保存すると、Officeのアプリケーションを持っていなくてもファイルを確認できるので便利です。電子化は、ペーパーレス化と同じ意味でとらえられやすい言葉です。デジタル化、DXなどと混同して使われることがあります。まず、それぞれの違いを明確にしていきましょう。

電子化とペーパーレス化

ペーパーレス化とは、オフィスから紙の書類をなくすことです。電子化によってもたらされる成果のひとつと考えるとよいでしょう。ペーパーレス化の背景とメリットを整理します。まず背景としては、SDGsなど環境保全の取り組みからペーパーレス化が重視されています。紙の原料となるパルプを生産するための過度な森林伐採により、環境破壊が問題として取り上げられるようになりました。日本では1998年7月施行された電子帳簿保存法、2005年4月施工されたe-文書法などによって電子化が推奨されてきました。新型コロナウイルスの感染拡大とテレワークの浸透により、さらに企業における電子化が進んでいます。
ペーパーレス化の主なメリットは、コスト削減と業務効率化です。デジタルの記憶装置にデータを保存することで、物理的な保管スペースを削減できます。ファイルが検索しやすくなり、メールに添付して送信するなど情報共有も簡単です。

電子化とデジタル化

デジタル化とは、ITを使ってさまざまなデータを活用することです。デジタル化の活用データのひとつとして、電子化した紙媒体のデータがあります。デジタル化は、業務プロセスの改善、生産性の向上、効率化を主な目的としています。電子化された書類申請の流れを例に挙げると、申請書の様式のPDFをダウンロードしてプリントアウトして、自筆で記入と押印をして提出、提出書類をスキャンしてデータ化する流れが一般的といえるでしょう。
このとき、氏名、住所、選択肢など、記入する項目が決まっているのであれば、パソコンなどの端末からクラウド上のシステムのフォームを使って入力することで、印刷が不要になります。提出された書類を転記する必要もなくなります。ラジオボタン、チェックボックス、プルダウンメニューを使うことで、入力の簡易化とミスを減らすことができます。入力した数値から自動計算も可能です。データベースに格納することにより、さまざまな活用の幅が広がります。電子化をさらに効率化し、データ活用を進める仕組みとしてデジタル化があります。

電子化とDX

DXは、デジタルトランスフォーメーション(Digital Transformation)の略であり、デジタル化によって人々の生活をよりよく変革することを指します。企業はもちろん社会全般を対象として、電子化、ペーパーレス化、デジタル化などを含んだ広義の意味があります。よりよい働き方を実現するために、また企業の優位性を高めるために総務として何ができるかを考えることが、戦略総務のミッションといえるでしょう。こうしたミッションは、DXに取り組むことで実現可能なことが多いはずです。
DXと総務は一見関係がないようにも思えますが、電子化を最初の第一歩として、ペーパーレス化、デジタル化の取り組みのひとつひとつがDXにつながっています。

電子化に向いている文書、向いていない文書

では、どのような文書を電子化すべきか考察していきましょう。

電子化に向いている文書

電子化に向いている文書は、閲覧中心であり、ボリュームがあってプリントアウトに時間もコストもかかるような場合です。総務関連でいえば、たとえば就業規則は紙で配布しなくても、PDFや社内向け掲示板などに掲載して閲覧できるようにしておけば問題ありません。改定があったときは、履歴を記載するとともに版数を明記しておきます。
戦略総務の視点から考えると、セキュリティの問題が生じる文書は、あえて電子化して閲覧や持ち出しの制限をかけることを検討しましょう。印刷やダウンロードができないようにしたり、特定の部署や役職の社員だけに閲覧権限を与えたりなどの制限を加えます。特に顧客リストなど個人情報関連が含まれる書類は、セキュリティ面から情報漏えいなどを未然に防ぐことが重要です。このように、電子化は効率化だけではなく、セキュリティの面でも役に立ちます。

電子化に向かない文書

電子化を進める過程で、あらゆる文書を電子化する必要はありません。たとえば会議で配布したドラフト段階の資料、福利厚生を検討するために収集した資料などは、活用の頻度が低ければスキャンする労力がムダになります。データ化すれば物理的なスペースはとらないとはいえ、保存するデータの容量が増えると記録媒体を圧迫します。電子化のルールを決めておくと良いでしょう。
また、電子化に向かないわけではありませんが、申請書や契約書は、ダウンロード後にプリントアウトして署名や押印が必要になるのであれば、ペーパーレス化に貢献するとはいえません。入社時の雇用契約、機密保持契約は、オンライン上で締結できるようにすると、完全なペーパーレス化を実現できます。

電子化のメリット、デメリット

すでに取り上げた内容を振り返りながら、あらためて電子化のメリットとデメリットを整理していきましょう。メリットとデメリットの両側面を理解しておくことが大切です。

電子化のメリット

主な電子化のメリットには、次の3つがあります。

  • 業務効率化
  • コスト削減
  • セキュリティ面の向上

業務効率化としては、管理が簡単になることが大きなメリットです。内容やタグによる検索が可能になり、文書を探しやすくなります。紙の資料を保管するときのように、資料に穴を開けてファイリングする手間がいりません。コスト削減については、ペーパーレス化による紙代の節約のほか、保管スペースを削減できます。社内で保管できなくなった書類を、貸倉庫と契約して保管している場合があるかもしれません。場所の確保や整理も大変です。電子化の場合、書類を保存するためのストレージを増設するだけで対応できます。

セキュリティ面では、文書の紛失防止にも役立ちます。プリントアウトした重要書類の入ったカバンを電車の中に置き忘れるようなトラブルがなくなります。電子化されたファイルをクラウド上の閲覧に限定すれば、パソコンを置き忘れた場合にも外部から閲覧できないようにすることが可能です。また、自然災害などによって会社の建物が損壊したときにも、クラウド上のストレージに文書を保存しておけば、データを守ることができます。BCP(Business Continuity Plan、事業継続計画)対策にのメリットもあります。

電子化のデメリット

一方で、電子化の主なデメリットとしては、次の3つがあります。

  • 時間と手間がかかること
  • 技術的な理解が必要
  • 向き不向きの問題

まず、製本されている冊子の書類を1枚ずつ手作業でスキャンするような場合、手間と時間がかかります。文書をばらばらにして読み取り、電子化した後で製本し直す作業をしなければなりません。
効率よく電子化を進めるためには、技術的な理解度を高めることも必要です。たとえばPDFにセキュリティをかけるときの暗号化の知識、最適なスキャンの解像度、データのバックアップなどについて知っておく必要があります。
電子化に対する向き不向きの問題は、電子書籍の例が分かりやすいかもしれません。紙の本は厚みがあるため、直感的に全体のボリュームを把握しやすいメリットがあります。一方、電子書籍は縮小してサムネイルやアウトラインを表示させることができますが、単一のスクリーンに表示させるため、苦手な人にとってはページの位置の把握が困難です。

電子化に関連する基本的な技術

続いて、実際に電子化を進めるときに必要な基本的な装置や技術などについて簡単に解説します。

スキャナ

スキャナは紙の文書を読み取り、画像などのファイルとして保存する機器です。大きく分けてフラットベット型、シートフィーダ(ADF)型、複合機型があります。オフィスで使われている複合型コピー機やプリンタの多くは、スキャナの機能を備えています。ADF(Automatic Document Feeder)と呼ばれる自動給紙方式のスキャナを使えば、大量のページ数の文書を簡単にスキャンできます。
スキャナで原稿を読み取るときには、サイズと解像度が重要です。解像度は保存するデータの画素の密度を表し、印刷の場合は1インチあたりのドットのdpiという単位が使われます。一般的な文書であれば200dpi以上が基準になります。解像度を高くするときれいに読み取ることができますが、保存するデータの容量が大きくなるため注意が必要です。

OCR

OCRは「Optical Character Recognition/Reade」の頭文字を取った略字で、日本語では「光学的文字認識」として訳されています。スキャンした画像から印刷された文字や手書きの文字を認識して、テキストに変換する機能です。最近ではAIを搭載したOCRにより、高精度の画像認識ができるようになりました。読み込んだ画像からテキストに自動変換するため、文書からテキストを書き起こすような手間を省くことが可能です。ただし、100パーセントの精度ではないことを理解しておく必要があります。

PDF

PDFは「Portable Document Format」の頭文字の略です。PDFファイル形式で保存すると、アプリケーションやOSに関わらず、パソコンやスマートフォンなどあらゆるデバイスで開いて内容を表示できるようになります。表示されたレイアウトのまま印刷できること、閲覧・印刷・編集などの制限ができること、ファイルサイズを小さくできることなどの特長があります。ホームページなどのリンクを埋め込んで、入力フォームの設定、マルチメディアの利用も可能です。

電子化をその先のDXに進める技術

ここまでは紙の書類をスキャンしてデータ化する技術について取り上げてきましたが、既に取り上げたように、印刷のプロセス自体をデジタル化で省略することも可能です。3つの技術について簡単に解説します。

電子契約

電子契約とは、紙の書面を一切使わずに、インターネットを介して締結する契約の仕組みをいいます。プラットフォーム上にアップロードした契約書を受信者が確認し、電子署名を使って締結します。電子契約は、電子証明書とタイムスタンプによって構成されています。たとえば新入社員の雇用契約では、出社した後に紙の書類を渡して自著による記入と押印後に提出という流れが一般的ですが、入社時の雇用契約を電子契約にすれば、出社して書類を渡さずにリモートから契約することが可能になります。電子契約によって、契約締結までの時間短縮、郵送などのコスト削減、コンプライアンス強化を実現できます。

RPA

RPAは「Robotic Process Automation」の略で、プログラムによって事務作業を自動化します。たとえばAI-OCRと組み合わせて、読み取ったテキストの特定の部分をデータベースに保存するといった一連の単純作業の自動化ができます。ファイルを開いて、キーワードで検索してコピー、データを転記するなどの作業も可能です。データのチェック作業にも活用できる便利なシステムです。

クラウド(SaaS)の各種システム

総務部には、有給休暇の申請、交通費の精算、物品購入の稟議書の申請など、さまざまなワークフローがあります。申請書をPDFファイルにして共有し、必要な際にダウンロードおよびプリントアウトして提出してもらうこともできますが、ワークフローのシステムを使うことによってデジタルで完結できるようになります。
システムを使うメリットとして、ワークフローの標準化があります。システムの流れにしたがって申請処理を統一できます。さらに記入に不備があれば先の画面に進めないように制限をかけて、手書きの申請時に頻度の高い差し戻しや問い合わせを減らせます。面倒な申請処理をスマートにできることから、クラウドのサービスの利用をおすすめします。

まとめ

電子化はDXの最初の一歩であり、ペーパーレス化を進めるのであれば、電子契約、RPA、クラウドのサービス利用などの活用も視野に入れるべきです。戦略総務としては、DXを見据えた上で電子化の方向性を策定するとよいでしょう。電子化する書類を見極め、作業負荷が増える電子化は避け、快適さと効率性を追求すべきです。
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