深刻な人材不足、テレワークの浸透など、働き方が大きく変わりつつあります。こうしたビジネス環境の変化にともない、バックオフィス部門の在り方が問い直されるようになりました。総務に関していえば「戦略総務」という考え方が生まれています。ここでは総務の仕事を整理するともに、戦略総務のミッション、実現するためのポイントを解説します。
戦略総務とは?
戦略総務とは、経営戦略と連動して、従業員に働きかけて会社を変革する総務部門を指します。定型的な受け身の業務に徹する総務とは異なり、いわば「攻めの総務」といえるでしょう。これまで総務・労務・人事の部門はバックオフィスと呼ばれ、会社の裏方の仕事が中心でした。しかし、戦略総務では、従来の受け身型の業務を効率化し、戦略的な業務にシフトします。あらゆる社員が能力を発揮するためにはどうすればよいか、より快適なオフィス環境の実現には何をすべきかなど、社内改革に取り組みます。脱バックオフィスを実現するには、現状の総務の仕事を整理し、省力化すべき仕事を見極めることが必要です。まず、これまでの総務の役割を整理して、脱バックオフィス化のヒントを探ります。
総務部門の一般的な業務と役割
一般的に総務部門は、会社を支える「縁の下の力持ち」の存在といえます。社内はもちろん社外からの要望を処理するタスクを中心に日々の業務を行っています。企業活動を円滑に進める意味では意義のある仕事ですが、大変な仕事が多く、効率化が求められます。総務における主要な仕事を4つに分類して整理するとともに、効率化の方法を考察していきます。
社内環境の整備
総務の代表的な仕事に、施設の管理、照明や空調設備の点検、清掃業者の手配などがあります。リースの契約管理も含めて、オフィスで必要な什器、備品の発注や管理をも行います。物理的な環境整備だけでなく、休暇制度や福利厚生などの整備も総務の大切な仕事です。健康診断の実施、社宅の手配にも関わります。人事と総務は基本的に業務が異なりますが、人事部門のない会社では、総務が人事関連の仕事を兼務することがあります。したがって、総務が管理すべき社内環境は多岐に渡ります。効率化のためには、イントラネットや人材管理システムの活用が考えられます。
電話や来客などの対応、社内外の調整
社長や経営陣の補佐役として接客準備や来客の対応をします。また代表電話を受けるなど、会社の窓口の役割をも果たします。コールセンターを設置していない場合は、社外からの問い合わせやクレームの窓口として対応し、社内の担当者に引き継ぐ役割も担います。テレワークの浸透により、代表電話を置かない会社が増えました。音声案内を自動化して、プッシュボタンによって担当部署を呼び出す機能も使われています。このような電話の構内交換機をPBX(Private Branch eXchange)と呼びますが、インターネット回線を使って多様な場所で外線や内線を共有できるクラウドPBXの活用が進んでいます。クラウドPBXは配線工事が不要のため導入コストを削減ができ、さらに離れた拠点の内線を無料で使えます。したがって非常に効率的です。
ドキュメント管理
契約書のほか、従業員からの申請書、稟議書、報告書、マニュアルなど、多様なドキュメント管理も総務の仕事です。就業規則のような労務関連の書類も管理します。会社案内、入社案内など、社外に配布する資料の発注や在庫管理を行うこともあります。ドキュメント管理の効率化としては、文書の電子化とペーパーレス化が考えられます。いまだに文書を紙にプリントアウトするオフィスが多いかもしれませんが、ファイルの電子化により、コスト削減に加えてクラウド上のストレージを使った情報共有が可能になります。
社内イベントの運営
総務が中心になって、社員旅行などの社内イベントの企画と運営を行うこともあるでしょう。旅行代理店との交渉や手配、社員に対する伝達や実施を取りまとめるなど手順が多い業務です。また、株主総会や取締役会の運営、社内外の慶弔も総務が携わります。適切な対応が求められる大切な仕事です。さまざまな社内イベントを裏方として支える仕事に、やりがいを感じることが多いのではないでしょうか。こうした業務は、デジタル化が難しい総務ならではの仕事といえるかもしれません。
戦略総務の3つのミッション
ここまで一般的な総務の仕事を整理しましたが、総務の仕事は会社にとって重要な役割を担っています。続いて戦略総務の業務について考察していきましょう。戦略総務のミッションを3つにまとめます。
ワークスタイルと組織風土の改革
戦略総務の業務は、受け身ではないことが重要です。会社を変えていくことが戦略総務のミッションであり、組織改革のために総務みずからビジョンを発信します。そして、他部署の社員に積極的に働きかけることが重要です。
たとえば、総務で福利厚生などの制度を検討しているのであれば、社内制度の見直しをテーマとして、組織を横断した優秀な人材による総務部発のプロジェクトを立ち上げる仕事が考えられます。オフィス環境の改善、テレワークを快適に行う健康に関するガイドライン作成など、戦略総務が主体的に着手して、渦の中心となって会社全体を巻き込んでいきます。このような戦略総務の活動は、広報部門を通じたPR、投資家向けのIRとしても効果があります。戦略総務の活動をプレスリリースで発信し、メディアに掲載してもらうことにより、人材採用時に注目を集める効果も期待できます。優秀な新卒や中途の応募者を集めるきっかけとして役に立つでしょう。
総務起点によるDX推進
一般的にDX推進は情報システム部門の仕事と考えられがちです。しかし、給与計算や人材管理など、戦略総務が日常的に処理している業務フローのデジタル化を行います。つまり、戦略総務がDX推進を主導するということです。IT系の人材不足から「リスキリング」が重視されるようになりました。リスキリングは「スキルの再習得」を意味しますが、従来とはまったく違うスキルを新たに学び直すことを指します。総務のスタッフでありながらシステム開発に携わるような、マルチな人材開発をめざす方向性が考えられます。たとえばノーコード・ローコードの開発プラットフォームを使って、プログラミング経験のない社員が業務アプリを開発するような事例も注目されています。戦略総務の一員として「面倒な作業を自動化できないか?」という発想が大切です。現場で困っている課題から、デジタルによる解決策を探っていきます。
ESの向上、快適な企業の実現
ESは「Employee Satisfaction」の略であり、従業員満足度を指します。従業員満足度は顧客満足度との相関性が高いといわれ、経営者としても注目すべきテーマです。オフィス環境の整備や社内イベントの実施などにより従業員満足度の向上に努めてきた総務部の業務を、さらに戦略的な業務に集中します。満足度を向上させる要因として、衛生要因と動機づけ要因が考えられます。オフィスが不便というような不満にもとづく衛生要因を取り除くだけでなく、動機づけ要因に働きかけて、モチベーションを高める施策を行い、企業全体を活性化させます。ES向上の取り組みには、さまざまな社員との連携や情報共有が求められます。チャットなどのデジタルツールを活用しながら、社内のハブ(周囲をつなぐ中心人物)となって、よりよい会社づくりのために貢献するミッションです。
戦略総務の実現を困難にする課題
戦略総務を実現するためには課題もあります。仕事の問題、社内の問題、そして総務スタッフ自身の問題の3つを取り上げます。
ルーティンワークから逃れられない
総務の仕事には、毎日繰り返される定型的な仕事がたくさんあります。また、年末調整のように毎年処理しなければならない業務を避けるわけにはいきません。提出期限の決まっている急ぎの仕事が優先され、戦略的な業務は課題として残されがちになります。ルーティンワークから逃れられないことが大きな課題です。
社員からの些末な要請に追われる
「困ったときの総務頼み」という考え方が社員に定着していると、「給湯室が使いにくい」「備品の稟議書が部長で止まっている」ということまで、あらゆる苦情が総務の担当者に集まってしまうことがあります。結果として社員からの要請された仕事に追われて、戦略的な案件に着手できません。社員の困りごとを解決する点ではやりがいのある仕事ですが、便利屋の役割が続くことになります。
総務スタッフの意識改革ができない
仕事や社内の課題ではなく、総務の社員自体の問題も考えられます。何年も同じ仕事を続けて、受け身の業務に満足を感じている社員は、変革を拒む傾向があります。コツコツ与えられた仕事だけをこなすタイプは、戦略総務という方向性自体に異論をとなえるかもしれません。また、リーダーシップを発揮して、積極的に全社に働きかけていくことに適性がない場合もあります。経営者や上司から戦略総務を強制的に押し付けられたような場合は、モチベーションも低下させ、成功させるのは困難といえるでしょう。自発的に取り組めるような環境づくり、あるいは戦略総務の実現に向けた人材教育が必要です。
戦略総務を成功させる3つのポイント
これまでの総務を戦略総務の業務にシフトするには、会社にとって大切な業務を継続しつつ、さらに新たな役割を担う必要があります。つまり一般的な総務の業務の効率化が求められます。これには次のような2つの解決方法が考えられます。
- BPO(ビジネスプロセスアウトソーシング)の利用
- SaaSなどを利用したDX
BPOによって煩雑な作業を外部に委託すれば、総務のスタッフの負荷は軽減されます。ただし、委託の費用がかかります。また、社内にノウハウが残らないデメリットもあります。一方で、SaaSなどを利用したDXの場合、初期費用や月々の料金は発生しますが、軌道に乗ってしまえば負荷の軽減が見込めます。導入時のサポート(オンボーディング)やカスタマーサクセスを重視しているサービスが多いため活用できるようになるまで安心です。しかも、社内外において総務におけるデジタル化の成功事例をアピールできます。こうした前提を踏まえて、さらに戦略総務を成功させる3つのポイントを解説します。
注力すべき分野と指標を明確に定めること
戦略総務の実現は、漠然とプロジェクトを進めても成果が得られません。「リモートワークを快適にする」「従業員満足調査を行って満足度90パーセントの会社にする」など、注力すべき分野を明確にして、数値指標を設定して成果を得られるようにするとよいでしょう。社員にアンケートやヒアリングを実施して、改善してほしいことを聞き出すことも大切です。当然のことながら、すべての課題を解決できるわけではないため、優先的に取り組むべき課題を明確にします。、現場の社員と対話しつつ改善していきます。
属人性を解消し、持続的な活動ができるシステムづくり
戦略総務の基盤が完成したとしても、プロジェクト担当者が辞めた時点で従来の総務に戻ってしまうようであれば、成功とはいえないでしょう。総務部全体で情報共有を行うとともにシステム上でフローを標準化します。戦略的な業務は持続してこそ意義があります。特定の個人のスキルに依存しないシステムづくりを行うためにはAIの活用も考えられます。
人材データの積極的な利活用
企業活動によって、日々膨大なデータが生産されています。しかし、データを眠らせたまま活用できていないことも多いものです。データドリブン経営が注目されている現在、戦略総務の実現には、人材データの積極的な利活用が重要になります。人材の活性化には、正社員、パート、アルバイトなど多様な雇用形態における働き方やモチベーションの管理が求められます。社員の情報を分析し、優秀な人材が活躍できる環境づくりに配慮します。かけがえのない人的資本を最大限に活用するために、タレントマネジメントの考え方を取り入れることもおすすめです。
戦略総務の実現は、業務の自動化から
戦略総務を実現するためのポイントを整理しましたが「どこから進めてよいのか?」という疑問があるかもしれません。その答えは、企業の抱える課題によって異なります。しかし、まず総務の業務のデジタル化、煩雑な作業の自動化から手がけてはいかがでしょうか。戦略総務の構想段階では、部門内で負担が大きい業務の整理、そして他部署のヒアリングをおすすめします。その上で、デジタル化で解決できること、人的対応で解決できることを見極めます。総務の部門内にITに詳しい人材がいなければ、最初は情報システム部門と連携して進めるとよいでしょう。総務が変わり始めたことをきっかけに、他部署の社員が影響を受けることもあり得ることです。戦略総務の活動から会社全体が変わるかもしれません。
まとめ
総務の仕事が変わり始めています。その方向性のひとつが戦略総務です。戦略総務の実現には現状の分析が求められ、その上で効率化できる業務、戦略的に手がける業務を定めていきます。総務が中心になって会社に新たなムーブメントを起こし、社内はもちろん社外からも評価されるようになれば、組織が変わり始めるはずです。さらに優秀な人材を率いて新規ビジネスまで展開できれば、素晴らしい会社になるでしょう。戦略総務の実現に向けて、株式会社Fleekdriveでは給与自動計算などの機能を備えた「Fleeksorm」を提供しています。お気軽にお問い合わせください。