年功序列型の人事制度が終焉を迎えつつある中で、ステップアップのために転職活動をする人が増えています。市場での人材の流動は激化しており、優秀な人材を確保するため各企業はさまざまな施策を講じています。一方で、社員の入退社が増えることによって総務担当者もそれに関わる手続き業務が増えているといえるでしょう。入退社における必要な手続きや書類とは、どのようなものがあるのでしょうか。
この記事では、入退社時に提出すべき書類や手続きにおいて、「本人がすべきこと」「会社側がすること」また「法的に必要な手続き」や「それ以外の手続き」ごとに分かりやすく解説しています。また、電子化することでどのようなメリットを享受できるかについても紹介しています。

入退社を管理するときのポイント

入退社を管理するときのポイントは、実施する作業をチェックリスト化することです。漏れをなくし、各機関への提出書類も期限内に提出できるようになります。社員の入社・退社の際、社会保険や雇用保険などの手続きのほか、社内における各種手続きが必要です。ベテランの総務担当者であればさほど負担には感じないかもしれませんが、初めて担当する人にとっては、どれから手をつけて良いか分からないケースもあるでしょう。
社員本人が実施することと、総務担当者が行うことに分け、さらに法律に定められたものと社内規定に基づいたものに分けて整理することもポイントです。作業を各種類ごとに分けて把握することで理解しやすくなり、短期間で覚えやすくなるのです。

入社のときに必要な手続き

入社時に必要な手続きについて、それぞれの種類ごとに分けて解説します。

法律の定め以外に必要なこと

本人が提出するもの

  • 通勤に関する申請書:通勤経路、通勤手段を確認し交通費を把握します。

会社が行うこと

  • 給与振込口座の確認
  • 社員証、名刺の準備
  • 制服、作業着の準備
  • パソコン、会社用携帯電話、事務用品などの準備

以降は、法律に定められている手続きが必要なことを解説します。

労働保険と社会保険

労働保険には、雇用保険と労働者災害補償保険法が含まれます。社会保険には、健康保険や厚生年金保険などがあります。

本人が提出するもの

  • 年金手帳(または年金証書)
  • 雇用保険被保険者証(前職があるケース)

会社が行うこと

  • 「資格取得届」の提出:労災保険は、アルバイトを含めて全ての労働者が加入しますが、労働者から保険料徴収はなく入退社時の手続きはありません。健康保険、雇用保険、厚生年金保険は、一定の加入条件を満たす場合「資格取得届」を提出します。年金手帳(あるいは年金証書)の基礎年金番号を確認しましょう。前職があるケースでは、雇用保険被保険者証を提出してもらい、被保険者番号を確認して退社時まで保管します。

労働基準法に関すること

労働基準法は、労働契約や労働時間・賃金や就業規則について定められており、勤怠管理において重要な法律です。

本人が提出するもの

  • 卒業証明書
  • 成績証明書
  • 入社誓約書
  • 身元保証書

入社時に必要な書類と期限を社内規則で確認して社員へ提出を依頼します。

会社が行うこと

  • 労働契約の締結:労働契約の期間や賃金など、絶対的明示事項の5項目を明示する必要があります。相対的明示事項として休職、表彰、賞与などの記載が必要な場合もあります。
  • 労働者の記録を作成:労働者名簿への記録や賃金台帳、出勤簿やタイムカードを作成します。社員が退社した際、これらの記録は3年間の保存義務があります。
  • 雇入れ時の健康診断の実施労働安全衛生法では、正規雇用者だけでなく一定条件を満たす短期的な労働者についても「健康診断」を実施しなければならないとしています。ただし、3か月以内に健康診断を実施していれば、診断書を提出することで省略できます。

健康保険と厚生年金保険

会社が行うこと

  • 健康保険・厚生年金被保険者資格取得届、健康保険被扶養者(異動)届の提出:入社した日から5日以内に年金事務書へ「健康保険・厚生年金被保険者資格取得届」を提出します。被扶養者がいる場合は「健康保険被扶養者(異動)届」も提出を行います。
  • 国民年金第3号被保険者届の手続き:60歳未満の配偶者が、国民年金第3号被保険者になることを希望した場合、「国民年金第3号被保険者届」の手続きが必要です。

雇用保険

会社が行うこと

  • 「雇用保険被保険者資格取得届」の提出:入社した月の翌月10日までに、所轄のハローワークへ提出します。

税金関係

本人が提出するもの

  • 給与所得者の扶養控除等(異動)申告書
  • 給与所得の源泉徴収票(前職がある場合)

会社が行うこと

  • 住民税・所得税の手続き:住民税は、前職がある社員にはこれまでの徴収方法が一括納付か特別徴収かを確認して市町村にて手続きします。所得税は、扶養する家族がいる場合、給与所得者の扶養控除等(異動)申告書を基に源泉所得税を算出します。
  • 源泉徴収簿の作成:前職がある社員には、その企業から配布された源泉徴収票を提出してもらいます。

退社のときに必要な手続き

社員が退社した後、本人と連絡が取りにくくなる場合も多いため、退社前に提出漏れがないようにしておきましょう。

社員から回収するもの

  • 健康保険証
  • 社員証
  • 社外秘資料
  • 制服・パソコンなど会社からの貸与物

健康保険と厚生年金保険

本人が行うこと

  • 健康保険任意継続の手続き:健康保険任意継続を希望する場合、退職日の翌日から20日以内に会社が加入している健保協会へ本人が手続きを行います。

会社が行うこと

  • 健康保険脱退証明書の作成:健康保険脱退証明書は、国民健康保険への切り替えなどに必要なため本人に渡します。
  • 資格喪失届の提出:資格喪失届は、退社してから5日以内に提出する必要があります。

雇用保険

会社が行うこと

  • 「雇用保険被保険者資格喪失届」の手続き:雇用保険被保険者喪失届は、翌日から起算して10日以内の提出が必要です。なお、社員が離職票の交付を希望しているとき、または59歳以上の社員が退職するときには「雇用保険被保険者離職証明書」も必要です。

税金関係

会社が行うこと

  • 給与支払報告に係る給与所得異動書の提出:「特別徴収」で住民税を給与から天引きしていたケースでは、給与支払報告に係る給与所得異動書を市町村へ提出する必要があります。
  • 源泉徴収票の交付:退職の日から1か月以内に、所得税の源泉徴収票を交付します。

入退社手続きで留意しておくこと

入退社手続きにおいて留意すべきことは以下の3つです。

  • チェックリストを使用して抜け漏れを防ぐ
  • それぞれの手続きの期限を把握する
  • 退職後の個人情報の管理を徹底する

それぞれ解説します。

チェックリストを使用して抜け漏れを防ぐ

入退社時には、さまざまな提出書類があるため、手続きの抜けや漏れを防止するためにチェックリストを作成しておきましょう。専用のフォームを社内で管理を徹底することで、担当者が変更する際にも引き継ぎがしやすいなど業務の効率化につながります。チェックリストにそって、順に対応していけば新人の担当者でもミスを起こしにくいでしょう。社員に対しても、本人がすべきことを整理したチェックリストを作成すれば、都度質問に対応する手間や時間も削減できます。

それぞれの手続きの期限を把握する

自治体などの機関へ提出する書類は、それぞれ提出期限が異なっているため管理が大変です。例えば、入社手続きに必要な健康保険・厚生年金保険被保険者資格取得届は「雇用した日から5日以内」、雇用保険被保険者資格取得届は「雇用した月の翌月10日」が提出期限です。期限を過ぎてしまうことがないよう、こちらもチェックリストへ記載するなど正確にタスク管理をすることが重要です。

退職後の個人情報の管理を徹底する

社員の個人情報は、法律によって3年間の保管が義務付けられています。ただ、各企業の事情によっては退社した社員の個人情報を3年で破棄することなく、それ以上保管する企業もあります。しかし、長期間にわたって個人情報を管理することは手間がかかるため、どれだけの期間保管するかを社内で決めておきましょう。

戦略総務実現に向けた入退社手続き電子化のメリット

ここでは、入退社手続きを電子化するメリットについて解説します。

入退社処理のタスク管理リソースを大幅に削減

入退社の手続きを電子化すれば、書類の作成や仕分けをタスク管理することで見える化できるため手間を大幅に削減できます。入退社手続きには、上述したように大量な書類の準備、作成が必要です。システムにタスク管理を任せることで、次に、誰の、何の作業を実施しなければならないのかという作業を減らせることが、電子化の大きなメリットです。社会保険や雇用保険の手続きは、協会けんぽや年金事務所まで訪問し、届出を行わなければならないため、多くの時間と手間がかかります。電子申請を行えばオンラインでの手続きも可能なため、各機関まで出向く必要が無いのです。

空いた時間で採用活動へリソースを集中

電子化により、空いた時間は採用活動のリソースへ集中できます。昨今の人手不足により、各企業は人事採用に頭をかかえています。入退社の処理はある程度スケジュールがきまっているため比較的タスク化しやすいといえます。しかし、人事や採用活動などは発生するタイミングや業務内容が流動的なため、タスク化することが困難です。新たな人員を確保し、戦略総務を実現するためにはシステムへ任せられる業務は電子化し、人が実施しなければならない業務へリソースを集中すべきなのです。

入退社手続きの電子化により戦略総務へつなげよう!

社員の入退社にともなう業務は、電子化によってタスク管理を大幅に削減できます。入退社で発生する書類や手続きはさまざまあり期限も異なります。電子化により、タスク管理を自動化することで空いた時間は人事や採用業務に充てることで、労働力不足を改善し戦略総務の実現へとつなげられるのです。この記事をきっかけに、入退社手続きの電子化を検討されてみてはいかがでしょうか。