DX推進は、戦略総務の重要なミッションのひとつといえます。総務の業務はデジタル化することで効果が得られやすく、会社全体のDX推進を牽引するポテンシャルがあるからです。総務部が積極的にDXに取り組むことで、会社自体の変革につながります。ここでは戦略総務が取り組むべき7つの領域と進め方を取り上げます。
戦略総務とは・・・経営戦略と連動して、従業員に働きかけて会社を変革する総務部門を指します。

戦略総務のDXが会社を変える

総務は会社のあらゆる部門と関わる部署であることから、戦略的に業務効率化を行えば、会社全体を変える可能性を秘めています。たとえば有給休暇を申請するワークフローにITシステムを導入した場合、全社的にそのシステムを使うことになります。したがって総務部が行うDXは、企業として大きな意義があります。会社のDX推進は、情報システム部門が担う業務に考えられがちです。しかし、深刻なIT人材不足の背景から、さまざまな部門においてDX推進が求められるようになりました。総務部門においても戦略的にDX推進を検討すべきでしょう。
これまで総務部は、バックオフィス部門として「縁の下の力持ち」の役割を果たしてきました。しかし、DXを軸とした会社の変革を担い、総務が変わることによって会社が大きく変わるはずです。まず総務部の業務において、どのようなDXの可能性があるかを整理します。

戦略総務が取り組むべきDX、7つの領域

総務のさまざまな業務はデジタル化が可能です。デジタル化を進めるにあたっては、総務部の業務効率化に加えて「快適な働き方を全社的に実現するにはどうすればよいか?」という視点が重要になります。これが戦略総務として追求すべきDXのテーマであり、総務部と他部署がともに快適になるような変革を探っていきます。この目的を踏まえて、総務の業務でDX化できる領域を7つに分けて考察します。

受付・問い合わせ対応

多くの総務部では、社内外の受付窓口の業務を担っています。代表電話を受けて担当部署に転送するほか、社員の問い合わせにヘルプデスクとして対応することもあります。電話の応対は、自動応答によって省力化が可能です。合成音声による音声案内にしたがって番号を選択してもらい、最適な部署に内線をつなぐシステムを導入します。ヘルプデスクに関しては、頻度の高い問い合わせと回答をまとめて、ホームページやイントラネットの掲示板に掲載しておくとよいでしょう。こうした質問集はFAQ(Frequently Asked Questions)と呼ばれています。
さらに、FAQのデータベースを使って、AI(人工知能)によるチャットボットの活用が考えられます。チャットボットとは、対話型で自動的にテキストベースの質問と回答を行う仕組みです。チャットボットで解決できない内容だけ総務部の社員がフォローします。総務の問い合わせ対応の負荷を軽減できるだけでなく、他部署の社員としては、総務の担当者が不在のために回答を得られないなどの不満を解消します。

ワークフロー(各種申請処理)

業務に関わるさまざまな申請や稟議書の承認など、総務部で対応すべきワークフローはたくさんあります。このワークフローにITシステムを導入すると煩雑な作業を軽減して、ペーパーレス化を実現できます。しかし、注意すべき課題もあります。勤怠管理、交通費精算、物品購入など、目的別に異なった複数のシステムを導入すると、それぞれのアプリケーションで画面や操作方法が異なり、社員がひとつひとつ使い方を覚えなければならない状況が発生します。
あらゆる申請の流れを統合することは非常に困難です。これまでの業務の流れを整理した上で、どのワークフローをデジタル化すべきか検討するとよいでしょう。

メール配信管理

社員に対する告知も総務の大切な業務のひとつです。月末や期末の処理、各種行事、年末調整や健康診断のお知らせなど、社員に向けてメール配信を行うこともあるでしょう。提出書類が滞っている場合は、催促のメールを送信することもあります。全社員や部門長など配信先をグループ化してメール配信をする方法が一般的です。しかし、新入社員を追加したり、退社した社員をリストから外したりと、常にリストの整理が必要になります。このときグループにメンバーを入れ忘れたり、マネジメント向けのメールを一般社員に送信したり、うっかりしたミスに注意しなければなりません。
メール配信の管理システムを導入することにより、メーリングリスト運用の手間を省くことができます。ワークフローと連動させて、書類提出のリマインド(確認)やアラート(警告)のメール配信を自動化すると効率的です。

施設管理とWEB会議

社内の会議室の予約、施設の整備なども総務の仕事です。複数の社員が同時に同じ会議室を予約するトラブルを避けるとともに、重要な来客対応の場合は事前に会議室を予約しておく必要があります。こうした会議室の予約は、オンラインの掲示板システム利用が一般化しています。
戦略総務として取り組むことは、施設の利用状況を把握して、生産性向上のための改善を検討することです。施設予約システムを利用しているのであれば、それぞれの社員が会議に費やしている時間を把握できます。長時間に渡って会議室を使用すると、他の社員にとっては不便です。会議の内容を分析し、時間を短縮できないか対策を考えます。オフィスの一部に、カジュアルなミーティングスペースを設けることも対策のひとつです。

DXの視点から考えると、ビデオ会議の活用も重要です。リモートワークの浸透によりTeamsやZoomの利用が拡大しました。戦略総務としては、快適な仕事環境を実現するためのガイドラインを定めるとよいでしょう。ガイドラインには、利用するパソコンやディスプレイ、通信環境のほか、自宅の照明や椅子など留意すべきことを記載します。自己管理が求められるリモートワークでは、通勤によるストレスがなくなったとしても、別のストレスによって健康を損なうことが少なくありません。快適な仕事環境を実現するために、戦略総務として提案を行うとよいでしょう。リモートワーク時の疎外感やコミュニケーションの課題の解消を目的とした、上司と社員のラインケアについても検討すべきテーマです。
さらにメタバースとして、バーチャルオフィスのサービスも登場しています。音声から自動的に議事録を作成するAIの活用も進んでいます。生成AIの最新動向にも注目すべきです。

作業の自動化

社員が提出した紙の書類からExcelなどにデータを転記する単純作業は疲労しやすく、ミスを起こす可能性が高くなります。確認のための作業が必要になり、時間もかかります。こうした一連の作業を自動化する仕組みにRPAがあります。RPAは「Robotic Process Automation」の略であり、ロボットという言葉が使われていますが、自動処理を行うソフトウェア上のプログラムです。人間に代ってプログラムが一連の作業をこなします。
メールから必要な情報をコピーして、データベースに保存するといった作業を行うことができます。PDFのドキュメントから必要な部分だけを転記するような作業も可能です。

給与自動計算

給与計算は毎月発生する作業であり、Excelファイルにまとめたデータを確認後に給与計算ソフトに入力するケースが多いかもしれません。しかし、確認作業が必要になるなど、さまざまな煩雑さがともないます。クラウド上で提供されている給与自動計算のサービスを利用すると、効率的に進められます。リモートワークや出張など外出時にも、ノートパソコンなどモバイル端末から作業ができます。出退勤のほかに残業や有給などを一元管理が可能になり、制度や法改正時にも自動的にアップデートされるので便利です。

ドキュメントの電子化

就業規則や研修資料の書類など、総務で管理しなければならないドキュメントは多岐に渡ります。ページ数が多い書類もあり、印刷しようとすると膨大な紙が必要になります。保管のために物理的なスペースを確保しなければなりません。社外に持ち出して情報漏えいのリスクが高まるなど、セキュリティの面でも問題が生じます。
こうした書類のペーパーレス化は、DXの入り口として最適です。クラウド上でデータを共有すれば、リモートワーク時にどこからでも必要な書類を確認可能になります。またRPAと連携させてPDFからデータを自動的に抽出するなど、自動化の活用も考えられます。
フリーアドレスのオフィスでは、紙がなくなることによってデスク周りが快適になります。ドキュメントの電子化は、快適な環境づくりに貢献します。

戦略総務によるDXの進め方

さまざまなDXの領域を取り上げましたが、どのようにDXを進めるべきか悩むことも多いのではないでしょうか。そこで総務における戦略的なDXの進め方を整理します。いわゆるPDCAサイクルと呼ばれる流れを基本としています。戦略的なポイントとしては、DX推進プロジェクトの取り組みと成果を会社全体さらに社外に向けて情報発信することです。社内外への情報発信というゴールを定めることにより、モチベーションも高まるはずです。4つのステップで要点をまとめていきましょう。

現状の把握

まず現状の把握からスタートします。これまでの業務における課題を洗い出す段階です。社外の成功事例の収集やITパートナー企業の担当者から話を聞くことも大切ですが、まずは総務部内の業務の見直しと課題発見から進めます。DXは「なんとなく周囲の状況に流されて着手してしまった」という曖昧な目的のまま進めると成功しないからです。
また、ITは魔法の杖ではありません。あらゆる課題を解決できるとは限らないため、ソリューションの限界を見極めることが必要です。したがって「その課題はDX以外で解決できないか?」という発想を持つようにします。デジタル技術に固執せずに、課題解決の手段のひとつとしてDXをとらえる柔軟な発想が大切です。ヒアリングを行うのであれば、社内の他部署から総務部に対する要望を聞き出すとよいでしょう。耳の痛い要望があるかもしれませんが、新鮮な発見があるかもしれません。
総務部の業務の棚卸しについては、以下の記事でも取り上げています。参考にしてください。

DXの戦略策定と計画

現状把握の次に戦略策定と計画を行います。長期的な方針のもとに計画を立て、全体を俯瞰した視野が大切です。実施すべき施策の取捨選択をして、人員配置、予算配分、四半期や年間もしくはあるいは3年の計画を立てます。経営戦略と連動させ、OKRを設定するとよいでしょう。OKRは「Objectives and Key Results」の略で、達成目標と主要な成果を設定し、定性的な全体の目標と定量的な個人の成果を連動させて評価を行う管理手法です。
DX推進の成果を測定するために、定量的な指標の設定が大切です。設定しやすい指標のひとつは時間があります。作業時間としてはITシステム上で測定できる時間と、社員の申告が必要な時間があります。測定が難しいのであれば、5段階で進捗を評価する方法もあります。経済産業省が定めた「DX推進指標」も参考にするとよいでしょう。

DX推進の実施

計画にしたがってDX推進に着手します。最も負荷が大きい段階は導入時です。導入からシステム活用までの時間を短縮することが、DX推進のポイントになります。大規模なシステム導入する場合には、PoC(概念実証)を行います。そのITソリューションを導入することによってパフォーマンスが上がるか、処理時間を短縮できるかなどチェックした後で、本格稼働に向けて進めます。限られた社員にテスト的な導入から行うスモールスタートもよく使われる手法です。
インターネットを介して利用できるSaaSを提供している企業では、オンボーディングとして、カスタマーサクセスの部門のサポートが充実しています。オンボーディングは人事関連にも使われる用語であり、新入社員が新しい職場に慣れるように行う施策をいいます。人材にしてもシステムにしても、導入をうまく進めることが成功のカギになります。DX推進の過程では、オンラインまたは対面の定例会を設けて、進捗や認識を共有します。問題やトラブルが生じた段階では、早期解決をはかるようにします。

評価と改善

定期的な期間に振り返りと評価を行います。正しく評価を行うことでDX推進に関わるスタッフの士気を高めることが大切です。総務部門はもちろん全社的にヒアリングを行い、社員満足度(ES、Employee Satisfaction)として調査してもよいでしょう。実施した内容から課題を発見し、さらに改善のサイクルを回していきます。DX推進の活動成果は、社内外に情報を公開することがおすすめです。広報部門と連携してプレスリリースを配信することにより、ニュースなどメディアで取り上げてもらえる可能性があります。こうした情報発信は、得意先の評価にもつながります。ステークホルダー全体に対する報告をゴールとして定めることによって、DXに取り組むモチベーションが高まるのではないでしょうか。

まとめ

DX推進は情報システム部門のプロジェクトに限らず、総務主導でデジタル化を進めることも可能です。総務にはITの導入によって効率化できる業務が多く、あらゆる部署と密接に関わる総務がDXを手掛けることによって、会社全体を変革するきっかけになります。情報発信をゴールとして戦略的に取り組んでみてはいかがでしょうか。
株式会社Fleekdriveでは、戦略総務のDX推進を支援するために、給与自動計算のFleeksormのほかさまざまなサービスを提供しています。お気軽にお問い合わせください。