昨今、「戦略総務」という新たな運営方針が注目されています。戦略総務とは、従来の業務を遂行しつつ総務発信での新たな取組みを行い、企業の課題を解決に導く総務部門の在り方です。特にペーパーレス化推進においては戦略総務の視点が欠かせません。ペーパーレス化は業務効率化を目指す重要な取り組みですが、進展していく上ではさまざまな課題が見られます。
この記事では、ペーパーレス化が進まない要因を確認するとともに、電子データ化によるメリットやその方法、推進のポイントなどについて解説します。

なぜペーパーレス化が進まないのか

ペーパーレス化がなかなか進まない理由について解説します。

紙での提出が社内規定となっているから

ペーパーレス化が進まない理由は、紙媒体での提出や受領が社内規定となっているためです。戦略総務としてペーパーレス化を進めるためには、社内規定を変更しなければなりません。しかし、紙文化が根強い場合は社内の意識を変えるのが難しいこともあります。取引先とのやり取りでは、契約書や書類の提出にハンコや紙文書の必要性を求められる場合があるため、取引先との調整を行い、ペーパーレス化の目的を共有する必要があります。

長年運用したプロセスを変更することが大変だから

長年にわたって培われた紙文化やプロセスの変更は困難さを伴い、ペーパーレス化を遅らせています。多くの従業員が紙の資料に慣れ親しんでおり、新しいデジタルツールの導入やデータ管理に対して消極的になる傾向が見られます。戦略総務としてペーパーレス化を推進する場合、既存の紙文書をデジタルデータに置き換えなければなりません。変更の際は従業員の教育や研修を行い、導入段階での違和感や抵抗感も考慮します。

ペーパーレス化の方法

戦略総務の視点からペーパーレス化を進める場合、以下の方法があります。

  • クラウドストレージ
  • スキャニングサービス
  • 文書管理システム
  • OCR

4点について順に解説します。

クラウドストレージ

クラウドストレージを使った文書管理は、ペーパーレス化を進める際に取り入れやすい方法です。Google DriveやOne Drive、Dropboxなどのクラウドストレージの使用によって、インターネット上でファイルやデータ保存や共有が可能になります。クラウドストレージを使用することで文書へのアクセスが場所を問わずに可能となり、共有のための文書のやり取りやメール送受信の手間が省けます。また、保存データの容量によって費用がかかる場合もありますが、必要な文書をいつでも閲覧できる利便性があります。

スキャニングサービス

戦略総務の観点からペーパーレス化を進める際、専門業者が提供するスキャニングサービスを利用する方法があります。紙媒体をスキャニングして電子化することで、必要な文書を検索して確認できるようになります。
電子化したい書類が少ない場合は社内でスキャニングが可能ですが、大量の書類がある場合は時間や労力がかかります。業者を利用する際は予算計上が必要ですが、ペーパーレス化を進めるためには有益な投資になると考えられます。

文書管理システム

文書管理システムの利用もペーパーレス化を促進するために有効です。文書管理システムとはデジタル化した文書を一元管理するサービスを指します。文書の更新や共有のほか、破棄や権限制御などの文書管理も効率的に行えます。
クラウド文書管理システムでは、請求書や納品書、契約書などの重要書類を紐づけして管理、検索することが可能です。また、電子帳簿保存法に対応したシステムも提供されており、法律で保存が義務化された文書を適切に管理できます。

OCR

OCRは「Optical Character Recognition/Reader(光学的文字認識)」の略語で、画像内に書かれた文字をコードとしてデータに変換する技術です。手書きの文書を読み取る場合は精度が落ちる可能性があるため、主に印刷された文字を読み取る際に使用されます。
OCRによって変換されたデータは、WordやExcel、PDFファイルなどに保存が可能です。タブレットやスマートフォンで手軽に利用できるOCRアプリも活用されています。

戦略総務を実現するペーパーレス化のメリット

ペーパーレス化には戦略総務の視点から多くのメリットがあります。以下にペーパーレス化のメリットを詳しく解説します。

紙や印刷などのコスト削減

ペーパーレス化により、コピー用紙や印刷にかかるコストを大幅に削減できます。通常、文書を紙媒体で作成し印刷する際にはコピー用紙やインク、トナーが必要ですが、ペーパーレス化によって印刷にかかる経費を削減できます。印刷の削減はプリンターの台数を減らすことにつながり、リース代や維持費を節約するうえでも有効です。さらに、紙書類の郵送や配送にかかる経費も削減できます。

文書検索・修正・共有が容易

ペーパーレス化によるメリットの2つ目は、文書検索・修正・共有が容易になる点です。電子化された文書をクラウドストレージなどに保存すれば、複数人で情報の共有が可能になります。ファイル名や電子文書内の文字列で検索を簡単に行えるため、必要な情報を迅速に見つけられます。修正が必要な場合も、手書きによらず編集の経歴を残しながら全体で共有することが可能です。
さらにクラウドストレージでは共有フォルダや共同編集機能が提供されているため、取引先との情報共有も円滑に行えます。

情報漏洩のリスクを軽減

ペーパーレス化によって紙ベースを電子データに変換できれば、紙で管理する場合よりもセキュリティを強化できます。重要書類はパスワードで保護し、情報漏洩のリスクを低減させることが可能です。情報漏洩は企業にとって重大な問題となりますが、ペーパーレス化によるセキュリティ強化はリスクを低減させます。アクセスや閲覧権限の設定、ログ管理での閲覧・編集といった方法は、情報持ち出し不正や改ざんリスクの軽減につながります。

さまざまな働き方に対応

電子データをクラウドに保存した場合、社内に限らず社外でも閲覧や編集が可能になり、臨機応変に対処できます。たとえば商談で取引先に訪れる際は、自社の資料にアクセスして内容を確認しながら取引先との交渉に役立てることが可能です。
ぺーパーレス化によって、在宅ワークでの活用も容易になります。オンライン上で電子文書のやり取りができるため、働く環境の自由度が増します。メールやクラウドストレージなどを活用した情報共有は、作業の効率化を図り生産性を向上させます。

SDGsの取り組みによる企業イメージ向上

現在、SDGsへの関心が高まっており、環境問題に取り組む企業の姿勢が重視されています。ペーパーレス化は環境保全への前向きなアプローチとして認められ、顧客から好印象を受ける要素となります。企業はWebサイトなどでペーパーレス化の取り組みをアピールできます。顧客や社会から環境への配慮が高く評価されれば、ブランド価値や信頼性が向上し、競争力を高めることが期待できます。

ペーパーレス化推進のポイント

ここでは、ペーパーレス化を推進する際に気をつけるべきポイントについて解説します。

経営課題として全社で取り組む

ペーパーレス化は業務を変革し効率化する取り組みであるため、経営陣のリードのもとで一大プロジェクトとして推進することが重要です。総務部が戦略的にアプローチし、ペーパーレス化によるコスト削減や情報セキュリティ強化、環境保護といった効果が得られる点を社内で共有しなければなりません。経営陣や総務部のリーダーシップによる全社的な取り組みによって、ペーパーレス化を成功に導きます。

社内へ導入の目的や必要性を説明

戦略総務の視点において、社内へのペーパーレス化導入の目的や必要性を説明することは非常に重要です。紙での業務に慣れている従業員に対して、ペーパーレス化の目的を丁寧に説明するとともに、その効果を具体的に示します。さらに、従業員の声に耳を傾け社内のコンセンサスを形成しなければなりません。戦略総務としては、社内に協力的な雰囲気を醸成し、従業員が進んでペーパーレス化に取り組める環境を整えることが重要です。

段階的に進めることも検討

ペーパーレス化を導入する際は、まずは部署ごとに紙媒体の文書を分類し、どの文書を電子化できるかを選定します。徐々に導入することで従業員の抵抗感を軽減し、利便性を実感できるようにします。ペーパーレス化対象の紙媒体は以下の2つに分類されます。

  • 情報蓄積型:資料や文書、ノウハウを共有するための情報資産
  • 依頼型:業務遂行に必要な依頼や承認など判断を要する情報

業務に対する影響が少なく取り組みやすいところから始めます。戦略総務としてペーパーレス化の対象を選定し、従業員の理解を得ながらステップバイステップで進めることが、ペーパーレス化の成功につながります。

総務部だけでなく社員も使いやすいツールを選ぶ

社内のペーパーレス化を推進する際は、社員も使いやすいツールを選定します。戦略総務の視点から、ペーパーレス化の目的や文書の種類に応じて、社内文書や企業間取引文書に適したITツールを選定します。ツール選定には以下のポイントを考慮します。

  • 操作がしやすいか
  • 社内の課題に適合しているか
  • 従業員のITリテラシーに合うか
  • クラウドサービスの利用は可能か

戦略総務として業務課題やニーズを把握し、従業員がデータの共有や編集のしやすさを実感できる機会を増やします。

ペーパーレス化の注意点

ペーパーレス化を推進する際の注意点を戦略総務の視点から解説します。

全ての文書をペーパーレス化できない

ペーパーレス化を進める際には、全ての文書を電子化できない点に留意しなければなりません。2005年に施行された電子化した文書の保存を認める「e-文書法」では、緊急時など即座に閲覧が必要な書類や現物の重要性が高い文書をペーパーレスの対象外としています。たとえば以下の文書です。

  • 船舶の安全手引書
  • 免許証や営業許可証、建築業許可証などの現物
  • 不動産に関する契約の一部(事業用借地権設定契約書など)

ペーパーレス化を進める際は、どの文書を電子化できるか慎重に選ばなければなりません。戦略総務の視点では、ペーパーレス化に関する明確なルール設定を行い、効率的な業務運営を実現することが大切です。

システム障害のリスクを考慮しておく

ペーパーレス化を図る場合は、システム障害などのリスクにも注意が必要です。重要なデータがシステム障害によって閲覧できなくなれば、業務の滞りや混乱が生じます。事前にシステム障害に備えて以下のような対策を講じます。

  • 定期的にデータをバックアップしておく
  • クラウドサーバーを利用する
  • BCP(Business Continuity Plan)対策を行う

BCPとは企業が事業継続を確保するための計画であり、戦略総務として従業員に適切に周知させることで、より安定した業務運営が可能となります。

システムの導入=業務効率化とはならない

ペーパーレス化が必ず業務効率化につながるとは限りません。ペーパーレス化による効果を発揮するためには、以下のポイントを重視します。

  • 目的を明確にする
  • 従業員の理解を得る
  • 適切なシステムの導入

戦略総務としてペーパーレス化の目的を明確にしたのち、実際に始める前に従業員に主旨を説明したり現場の声を取り入れたりして社内の協力体制を構築します。また自社の業務プロセスを考慮し、最適なシステムを選定します。ペーパーレス化を戦略的に進めるためには、計測や評価の仕組みを用意し、成果や改善点を洗い出す取り組みも重要です。

ペーパーレスを導入して戦略総務を実現しよう!

ペーパーレス化は戦略総務の視点から、企業の経営戦略を具現化し、効率化と持続可能性を追求する重要な手段です。目的の明確化や従業員の理解と協力、適切なシステムの導入などを考慮し、円滑に進めることが重要です。
電子化により、総務担当者や従業員の負担を削減し、本業における集中力や効率性を向上させることができます。戦略総務の視点から、ペーパーレス化推進のメリットを最大限活用し、戦略総務の実現に取り組みましょう。